日本の燃料輸送を支える平野石油――スマート物流を車載Wi-Fiで効率化
工事現場で活躍する重機も、イベント会場の発電機や中継車も、動かすためには当然「燃料」が必要です。どうやって調達しているか、考えたことはありますか?
平野石油株式会社では、国内有数の配送ネットワークと保有する100台以上の小型タンクローリーを用い、あらゆる現場に燃料を配送しています。
注文や配送を、給油配送システム「Smart web order」(特許取得済)で行うなど、デジタル化も進めており、2022年にはすべてのタンクローリーにドライブレコーダー付き車載Wi-Fiルータを導入。配送業務の効率化とコスト削減を進めています。
今回は平野石油の物流や通信インフラについて、システム統括部長を務める、山下拓さんにお話を伺いました。
平野石油 システム統括部長 山下拓さん
リンク:平野石油
https://hiranosekiyu.com/
工事現場から被災地まで燃料を運ぶタンクローリーネットワーク
Q.よろしくお願いします。平野石油さんについて改めて教えてください。
――山下さん:日本全国の工事現場などに燃料を配送しています。工事現場だと、たくさんの重機がありますが、逐一ガソリンスタンドに給油に行けませんよね。そこで、我々のタンクローリーが行ってその場で直接給油をしたりしているんですよ。当社だけではカバーしきれないエリアももちろんありますが500社以上の同業者さんとお互いに助け合いながら、全国に燃料を配送しています。
Q.確かに、よく見かけるタンクローリーよりも小型なんですね。
――山下さん:このサイズなので、実際の現場まで直接行けるんです。みなさんがよく見る巨大なものだと狭い道路や現場まで行くことが難しいですから。
Q.なるほど。こういった車両のすべてにWi-Fiが搭載されているんですね。
――山下さん:はい。私たちIT部門が調達し、車両設備管理課という部署で設置しました。実はタンクローリーって、出来上がった状態では買えなくて、すべて8ナンバーの改造車なんです。緊急車両と同じで、素の車体を購入して、それ以外の部分は社内で1台1台作っています。当社の車両は混液防止装置が搭載されていて、軽油や重油などの異なる燃料も混ざらないように一台で配送することができますよ。 車検中で使えない場合の予備車も含めると、そういった車両を100台以上保有しています。国内でもかなり上位の保有数だと思います。
Q.工事現場以外でも活躍していると伺いました。
――山下さん:もちろんです。そもそも我々は裏方の裏方で、大体一般の方の知らないところにしかいないので(笑)。 大きなイベントの電源車の燃料なども、うちでやっています。コンサート会場などにも行きますね。 他には災害復旧でも活躍しています。能登半島地震のときにも24時間3交代で、複数車両が被災地に出動していました。なので、車両には余裕をもっておく必要があるんです。
Q.災害復旧にも活躍されているとは知りませんでした!
――山下さん:被害の大きかった2019年の台風15号のときにも出動しました。停電になると、東京電力や携帯キャリア、病院などの発電機が稼働しますよね。でもどこで燃料が必要になるか分からないし、準備しても燃料は古くなってしまうので、いつでもスタンバイしていられないんです。なので、災害が発生したあとに燃料を運ぶ必要があるんです。そのため、病院などと協定を結んでいて、有事の際にはすぐに手配をして現場にかけつけられるようにしています。私たちだけではすぐに行けない場所でも協力会社さんに「代行給油」を行ってもらうこともあります。
Q.こういった協力関係というのは有事の時以外にも?
――山下さん:普段からお互いに協力しあいながらやっていますね。
車載Wi-Fiでコストも業務効率的にも改善した
Q.車載Wi-Fiを検討いただいたのは、どんなきっかけだったのでしょうか?
――山下さん:ドライバーはタブレットを使って、配送指示書のダウンロードや、燃料の残量の登録、管理をしています。現場で急な注文を受けることもありますし、次回の予約を受けることもあります。注文管理にも配送管理にも、タブレットは業務に必要不可欠なものです。 他にも、スマートフォンやIP無線機、デジタコ(デジタルタコグラフ)などSIM入りの機器が多い状況で、かなり費用もかかっていたんです。ドライバーだけでなく、事務所の電話をも含め、通信機器や費用についてトータルで見直しを図っていました。
Q.そんな中で車載のWi-Fiにしようというのは、何か理由があったのでしょうか?
――山下さん:そんなタイミングで、ドライバーから「給油の待ち時間に、事務作業ができないか」という相談があったんです。実は、現場に到着しても、すぐに給油できずに、2~30分待ち時間が発生することがよくあるんです。その時間がもったいないから、事務所に戻ってからやる事務作業をその場でできないか、と。
Q.それまでのタブレットのSIMではできなかったのでしょうか?
――山下さん:はい。社内の専用ネットワーク上にあるシステムなので、通常のSIMによる通信ではアクセスできなかったんです。それで、車に乗せられるWi-Fiはないか探していました。 この車載Wi-FiはSIMフリーだったので、NTTコミュニケーションズさんの閉域網にも使えるSIMを利用することができました。それで、タブレットの業務の通信のほとんどをこのWi-Fiに置き換えることで、ドライバーは社外でも配送先でも事務作業をできるようになったんですよ。
Q.NTTBP にお声がけいただいたのは、どんな理由だったのでしょう。
――山下さん:たまたま都営バスに乗車したときにフリーWi-Fiのステッカーを見かけて、NTTBPさんのロゴを見つけました。調べてみたら新幹線のWi-Fiもやっているし、車両内のWi-Fiを頼むなら安心できるだろうと思ってご連絡しました。 詳しく伺ってみたら、ドラレコや通話機能もついているというし、それすごいね、となりまして検討を進めることになりました。 導入してからは、タブレットでの業務のメインは車載Wi-Fiになっています。
Q.タブレットの通信はWi-Fiにされた、ということですが、もともとタブレットに入っていたSIMは解約されたんですか?
――山下さん:いえ、通信障害への備えとして、タブレットには車載Wi-Fiとは別キャリアで格安SIMを入れることにしました。 昨今、通信障害が頻繁に発生していますよね。注文や配送管理をデジタルに頼っていますから、タブレットの通信手段が単一であることをリスクだと感じていました。Wi-Fiを導入することによって、マルチキャリアで通信手段を確保することができるようになりました。 業務のメインは車載Wi-Fiですから、ごく少ない通信量でいいですし、社員間でシェアリングできる契約にしているので、少ないコストでリスクヘッジができています。
Q.デジタル化が進むにつれ、通信障害への備えも重要になっていますね。 実際に使われているドライバーさんたちの声はいかがでしょうか?
――山下さん:外で作業ができるようになって、無駄な時間を過ごさなくてよかった、という人もいますし、変えたけど別に...という人もいますね。 ネットワークが変わっても操作端末自体は変わりませんので、使用感に違いはありません。
Q.車載Wi-Fiからスタートして、他の機能も付いているところもよかったとのことですが、具体的にはどのように活用されていますか?
――山下さん:通話機能がついていることで大きくコスト削減につながりました。というのも、IP無線機というトランシーバーのような使い方ができる機器を、スマートフォンやタブレットとは別に、本部から各車への連絡用途で使っていたんです。ただ、この車載Wi-Fiの通話機能を利用すると、ハンズフリーで各車に一斉に緊急時の連絡などができるため、IP無線機に置き換えることができるとわかり、IP無線用の端末もそのための回線契約も減らすことができました。
Q.最後に、今後の展望を教えてください。
――山下さん:燃料管理など、さらに自動化・デジタル化できることはまだまだあると感じています。車両にWi-Fiがついたことで、インフラとしては整いましたので、今後もさらに効率化をすすめられる施策をとれると思っています。 また、デジタコのような機器も今はSIMとセットで販売されていたりして、通信が一本化できていない部分もあります。今後の機器更改の際には、車両のWi-Fiをさらに活かせるようなことも考えていきたいですね。
DXは無線通信インフラ整備から
平野石油さんは、積極的に業務の多くをデジタル化しています。また、デジタル化だけではなく、運送業の2024年問題にも早くから向き合い採用を強化することでドライバーのみなさんが働きやすい職場環境を作り上げているのだそうです。
運送業全体で人手不足が深刻化する中、こうした先進的な取り組みが社会問題の解決につながっていくと感じました。
平野石油さんの事例は以下ページでもご紹介しています。 併せてご覧ください。
リンク:平野石油株式会社ウェブサイト
https://hiranosekiyu.com/
リンク:平野石油 導入事例 : NTTBP|NTTブロードバンドプラットフォーム
https://www.ntt-bp.net/product/case/hiranosekiyu.html