いつでも使えると安心していたライフラインが、突如失われる――そうなった時、私たちには何ができるでしょうか。
2024年1月1日、甚大な被害をもたらした巨大な地震は、石川県能登地方に住む人々の生活を一変させました。ライフラインへの影響も凄まじく、断水や停電、移動も困難となりました。携帯基地局や光回線も被害を受け、多くの場所で「通信」もままなりませんでした。
そんな中公開されたのが「能登半島地震コネクトマップ」です。被災地にいる人自らが「インターネットにつながる場所」を登録することでつながる場所が可視化されました。なお、現在は新たに場所の登録はできませんが、情報はオープンデータとして公開され、状況分析などへの活用も期待されています。
この「能登半島地震コネクトマップ」を制作したのは「コード・フォー・カナザワ」というシビックテックの団体です。
このサービスは発災から6日後の1月7日にリリースされ、リリース直後から多数の「つながる情報」が登録され、人々の大きな助けになりました。
画像引用:能登半島地震コネクトマップ
https://noto-earthquake-conmap.glide.page/dl/74c4fe
今回は「能登半島地震コネクトマップ」の開発を主導し、提供した一般社団法人コード・フォー・カナザワの代表理事福島健一郎さんにお話を伺ってみました。
代表理事を務める福島健一郎さん
活動のきっかけは「力になりたい」という思い
Q.まず最初に、コード・フォー・カナザワがどのような団体なのかをお聞かせください。
――福島さん:コード・フォー・カナザワは2013年5月に設立されたシビックテックのコミュニティです。ITなどを使って、自分たち市民が中心になって、自分たちの地域課題、社会課題を解決していきたい、より良くしていきたいと活動を始めた団体です。ゴミ出しの日が一目でわかるアプリ「5374(ゴミナシ).jp」など、普段はさまざまな課題に対して、プロジェクトを作って活動しています。
5374.jp
住んでいる地域を選択しておくことで、近いゴミの日を順番に表示してくれるアプリ。タップで捨てられるゴミの種類も確認できます。オープンソースとして公開されていて、各地へ広がりを見せている。
画像引用:5374 Official Website
http://5374.jp/
コネクトマップ開発の始動は震災後だった
Q.「能登半島地震コネクトマップ」が公開されたのは非常にスピーディでした。以前からこのような通信可能箇所のマッピングを市民で行うというような構想はあったのでしょうか?
――福島さん:いいえ、ありませんでした。あのマップはあの地震のあとに発足したチームで集まって考えだしたものなんです。
Q.そうなんですか!
――福島さん:私たちも被災者だったので、まずそれぞれにやることがありました。数日の間はみんな目の前のことに必死で......3日くらいになってようやくメンバーとやりとりが出来ましたね。そんな中で「何かやれることをやろう」という話になりましたが、その時点では何をやるかも決まっていませんでした。とりあえず何かしなくては、とそう思っていました。
体感した「情報を受発信する困難さ」
Q.自らも余裕がないはずなのに、素晴らしいことだと思います。
――福島さん:被災後は、とにかく何もかもが足りませんでした。何もかもというのは「モノ」だけではありません。むしろ支援をいただき、最低限の「モノ」は手に入ったとも言えるかもしれません。けれど、「情報」を手に入れることはとても難しいとつくづく感じました。
Q.モノ以上に手に入りにくいと感じたわけですね。
――福島さん:地震のあと、あらゆることが「誰も詳しいことを知らない」という状況だったのです。情報を見聞きした人が、口頭で聞き仕入れた情報を、避難所のリーダーが周知するというような、ある意味原始的なリレーでしか情報が伝わってきませんでした。
Q.多くのライフラインが断絶し大変な状況だったと聞きます。
――福島さん:はい。そんな困難な状況の中ですから、情報があるとないとでは、助け方、助かり方に明確な違いが生まれてしまいます。誰がどこにまだいる。食べ物があちらに届いたそうだ。色んな種類の情報がありますが、それが自由に得られないんです。私は今回それを痛感しました。
Q.情報を得るためにも通信が必要だと。
――福島さん:そうです。テレビも映りましたが、細部の情報はありませんし、欲しい情報を能動的に取ることはできないんです。誰も情報を集める方法がなく、伝えられないのは不便でした。そうなると欲しいのはネットなんですが、当時の通信環境は「発災直後はつながる場所でも、次第につながらなくなっていった」「いつの間にかつながるようになってた」と安定しない状況でした。もし「今どこがインターネットにつながるか」ということが分かると、非常に便利だと感じました。
スピーディなリリース後は多くの支援の手が届く
Q.数時間で作り上げたという噂を聞いたのですが。
――福島さん:実際に正式リリースされたのは7日だったので、そうですね、数時間というのは、作りはじめてから完成までの時間だと思います。とにかく場所もないので、6日の日に石川県庁のロビーでメンバーと会って話をしました。そこで、先ほどの情報について私の思いを伝え、プロトタイプも見せました。この時代、情報の発信や受信ができないというのはかなり大変で、命取りになりうるということを話しました。みんな賛同してくれまして「じゃあつながる場所がわかるようなやつを」と。出たアイディアを形にするまでの時間は確かにあっという間でしたね。速度を優先しノーコードツールで作ったので、細かい部分で「もっとこうであれば」というところは追って改善していきたいと思います。
Q.つながる場所が、多くの人の手でリアルタイムに可視化されていくというのは、とても実用的だし、発想も面白いと思いました。こういったサービスは知ってもらわなければ使ってもらえませんが、広めるために工夫したことはありますか?
――福島さん:私たちだけでなく、これこそシビックテックという感じで、こちらからお願いしなくても誰かがさらに良くしてくれる流れができていたのが良かったと思います。例えば、このコネクトマップを実際に使う動画を撮って、それをシェアすることで広めてくれた方もいました。操作方法のわかりやすいイラストを提供してくれた方もいます。SNSをはじめ、記事取材だったり、動画取材だったりと声をかけてくれて。「こういった活動があるよ」とたくさんの人が拡散してくれました。オープンソースなので、別の災害が起こってしまった際にそのまま役立てることもできますし、絶えず人々の手を通してより便利に形を変えていけることは良い点だと思っています。
【能登半島地震コネクトマップ】
— 山口陽子@グラレコ (@yoko_yamaguchi4) January 9, 2024
ネットの状況を可視化するアプリです。
現地におられる方々が、ここつながるよ!とポチするだけで登録完了!
データはオープンデータとして活用します。
ぜひ!現地に共有願います!https://t.co/CZbTKh9odj?#能登半島地震コネクトマップ pic.twitter.com/SfegP1Zlfj
自分たちの地域を自分たちで守っていくためにできること
Q.非営利でありながら、精力的に活動されている原動力とは何なのでしょうか。
――福島さん:例えば、現実的な話、3ヶ月がたった今、あの地震のことは皆さんの頭に当初ほど大きく残っていないと思います。東日本大震災で被災された方がFacebookで助言してくれたことを覚えています。今、日本中が助けてくれている間に、自立できるようにしておかないと、いずれ忘れられたときに大変だよ、と。これは仕方のないことではあるんですが......震災から時間が経っても助けてくれる方もいるけど、誰もが、常に考えてはいられません。だから、ある意味自分たちの地域は、最後は自分たちで守っていくほかは無いとも言えます。そしてシンプルに、自分たちの土地のことは自分たちで本気でやろうという考え方は、とてもいいなと思っています。私にとって、それはシビックテックをやる原動力のひとつです。
Q.最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。
――福島さん:地震は明日起こるかもしれないし、今、ここで起こるかもしれない。地震が起こってから何かを考える余裕はありません。だからこそ少しでも備えて欲しいです。備えてもうまく行かないことが多いです。ですが、準備していないことは何もできません。そして、シビックテックを始め、みんなで情報をつくる、組み上げていく、そうやって地域の安全性や利便性というのは高めていけるものだと知って欲しいですね。そしてこういったメリットがわかる人は、そのメリットを周囲に説明して欲しいと思います。
それぞれができることをして復興の継続を
巨大な震災に見舞われた2024年1月1日からおよそ4ヶ月、今回この取材の前に、筆者はボランティアへ参加し、改めて震災後の石川県の様子を目の当たりにしました。
北陸新幹線延伸に沸く金沢市では多くの観光客で賑わいを見せ、人の強さに感じ入る一方、数十キロ離れた奥能登地域では震災の爪痕が強く残っていました。
建物は倒壊したまま、道路はひび割れ歪んだまま――復興は道半ばでさえなく、まだ入り口に過ぎないと感じさせられる、そんな景色が拡がっていたのです。「時が経てば記憶は薄れてしまう」という話が頭をよぎりました。
倒壊した建物がいたるところで目に入ります
ボランティアセンターから車で25分、災害ゴミの片づけをしながら痛感したのは、まず何をするにもパワーが足りないということでした。
ボランティアを求める多くの声はお年寄りのものです。この地には、倒れたタンスを持ち上げる力が、塞がれた入り口を抉じ開ける力が、その他あらゆる場面で必要な力と、それが出来る人間の数が圧倒的に不足していました。
「能登半島地震コネクトマップ」の提供は終了していますが、もし同じような災害のときに同様のマップがあればそこに情報を登録するだけでも人々の助けになります。特別な技術を持っていなくても、自分の力を役立てられる機会を増やしてくれる――テクノロジーがそのような使われ方をするのは大変喜ばしいことです。
みんながそれぞれ、できることをできる範囲で助け合えていければ良いなと思います。
「能登の里山里海」として世界農業遺産にも登録された能登地域
のどかで優しい景観の広がる素晴らしい地域を訪れてみませんか
このコード・フォー・カナザワさんの取り組みは、WIRELESS JAPAN2024で一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会【Wi-Biz(ワイビズ)】から表彰されるそうです。
■日時 5月29日(水) 16:20-16:50
■会場 東京ビッグサイト 西3・4ホール
関連リンク:
WIRELESS JAPAN2024
https://www8.ric.co.jp/expo/wj/
code for kanazawa
https://codeforkanazawa.org/
Wi-Biz通信Vol.108【Wi-Bizニュース】 | 一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会【WiBiz(ワイビズ)】 - メルマガ一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会【WiBiz(ワイビズ)】
https://www.wlan-business.org/archives/44279