IEEE 802.11ah(Wi-Fi HaLowⓇ)やWi-Fi 6Eなど、Wi-Fiの技術は刻一刻と進歩しています。ニュースで見かけるこれらの新技術が「実際はどんなものなのか」イメージできますか? 私はできていませんでした。
実は、そんな私のような人間にうってつけの施設があるのです。
その施設の名は「νLab(ニューラボ)」。一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会【Wi-Biz(ワイビズ)】と802.11ah推進協議会(AHPC) が作った、新たな無線技術を実際の装置やユースケースの展示などを通して学習、体験できる施設です。
今回はこちらにお邪魔して、802.11ahやWi-Fi 6Eの装置の実物や活用例を間近に見てきましたので、ご紹介したいと思います。
ニューラボってどこにある?
ニューラボは東京都調布市、NTT中央研修センタの一角にあります。2023年10月にオープンしたばかりのこの施設、事前予約さえすれば誰でも見学することができるんです。
さっそく中に入ってみた!
室内にはパネルと実機が展示してあります。
今回はWi-BizとAHPCのメンバーでもあるNTTBPの無線技術者・立川さんに、施設内を案内してもらいました。
ワイヤレス技術部 電波・品質管理室担当部長 立川伸彦
関連サイト:プライベートワイヤレスラボ「νLab(ニューラボ)」 | 一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会【Wi-Biz(ワイビズ)】
関連サイト:802.11ah推進協議会
ニューラボの展示を一部ご紹介!
IEEE802.11ahってどんなもの?
展示を見る前に、IEEE802.11ahについて少しおさらいしておきましょう。
IEEE802.11ahはWi-Fiの通信規格のひとつ、つまり「Wi-Fi」の仲間ではあるのですが、みなさんが普段利用しているWi-Fiとはちょっと雰囲気が違います。
簡単に言えば「1GHz未満のISM Bandを利用した新たなWi-Fiの規格」、さらに簡単に言うなら「めちゃくちゃ遠くまで届く省エネWi-Fi」です。
関連リンク:802.11ahについて(802.11ah推進協議会)
https://www.11ahpc.org/11ah/index.html
これを使えば、今までの規格よりはるかに省電力で、1km以上もの遠方へと動画やファイルを送ることができてしまうのです。920MHz帯という周波数帯を使うのですが、先に言った通りWi-Fiの仲間なので免許はいりません。かなり優秀な気がしませんか?
実際の802.11ahのアンテナや機器はどんなもの?
それでは実際に使われている802.11ahの機器を見てみましょう。
実物を目にすると、思ったより小さいな、という印象でした。これで遠方まで電波を飛ばせるなんて不思議な感じがします。また、Webカメラのような、通信容量の大きくなりそうな機器でも問題なく使えてしまう、というのも驚きでした。
高性能なのにとってもコンパクト!
IEEE802.11ah対応無線LANブリッジ
(サイレックス・テクノロジー株式会社)
IoTゲートウェイ対応 11ahアクセスポイント 「ACERA330」(株式会社フルノシステムズ)
上の写真のものは通常のWi-Fiと802.11ahと兼用で利用できるアクセスポイントで、両サイドのアンテナが通常のWi-Fi、ケーブルで長く伸ばすことができるのが802.11ahのアンテナです。長く伸ばせるので、より高い位置にアンテナを設置できるのがうれしいですね。
機器の他に、スマート農業、スマートファクトリー、スマートホームをテーマに、NTT中央研修センタ内の養魚場や農場、数百メートル離れた監視カメラやセンサーと802.11ahで通信を行い、モニタリングなどを行っていました。
11ahアンテナ一体型のWebカメラ
Dynalink Wi-Fi HaLow Camera「CAM2301」(Askey Computer)
通常のWi-Fiでは距離による減衰や遮蔽物で届かない場所でも、映像を送れていることを実際に確認することができます。
施設内の11ahアンテナ内蔵のカメラから送られてきている実際の映像
802.11ahの特徴の1つが少ない電力で稼働できることです。このラボでは、屋外に設置したカメラをソーラーパネルで得られる電力だけで稼働させたり、センサーをモバイルバッテリーで稼働させたりしています。
次の写真は、農地での設置の様子です。百葉箱の中にセンサーも格納されています。ソーラーパネルと一緒に設置することで、電源ケーブル不要で運用しています。
11ah対応定点監視カメラ
「Furuno Wireless Camera」 (古野電気株式会社)
アンテナはとても軽く、設置もしやすいとのことで、これからもっともっと目にするようになるかもしれませんね。より小さなバッテリーでの稼働も検証しているそうで、今後も設置コストの軽減などが大いに期待されているそうです。
画面下が802.11ahアンテナとセンサーを組み合わせてある機器
オレンジ色の機器はバッテリー
11ah対応IoTボード
(株式会社ビート・クラフト)
画像解析AIや稼働中の機器の制御システムと組み合わせることで、遠隔操作や自動化の幅がひろがります。通信だけでなく、活用に関してもさまざまな実験が行われているんです。
画像解析のAIと組み合わせた、工場環境のモニタリングの様子
せっかくなので802.11ahについていろいろ質問してみた!
興味はあるけど導入のイメージがついていない方も多いと思います。そこで、立川さんにいくつか質問してみました。
Q.802.11ahのアンテナの設置に特別な技術は必要ですか?
――立川さん:設計さえしっかりしておけば、特別な技術はいりませんよ。みなさんがよく使うWi-Fiと基本的には仲間ですし、扱いに免許も不要です。このラボも協力会社さんにお任せして設置工事を行いました。
Q.無線機やアンテナってやっぱり値段が高いんでしょうか?
――立川さん:法人の利用としては比較的安価に入手できます。用途によりますが遠くに届かせることだけを考えるならWi-Fi中継を使うより安価にできるかもしれません。ただ、今は製造メーカーが少ないのであれこれ選べるわけではないですが。
Q.センサー用途や省電力と言うと、LPWAが思い浮かびますが、それとはどう違うのですか?
――立川さん:よくご存じですね(笑)。LPWAは国内でも既に活用されていますが、802.11ahはそれと比較して「標準規格であるIP通信のLPWA」「画像や映像に適した、数Mbpsのスループット」という特徴があります。 画質にこだわらなければ、動画も問題なく送れます。また、LPWAは特定のゲートウェイやクラウドサービスを一緒に契約することが必須だったりするものがほとんですが、802.11ahはWi-Fiの仲間でオープンなので利用にしばりがなく、工夫次第で誰でも自由に利用することができますよ。
Q.今後、利用シーンは増えていくのでしょうか?
――立川さん:そう思います。手軽に屋外でも問題なく利用でき、他の規格にない特徴がいろいろありますから。 屋外でのWi-Fi利用は2.4GHz帯では干渉、5GHz帯では周波数帯ごとの利用制限やDFS、6GHz帯では出力制限などの課題がありますが、これらの解決にもつながります。今後、スマート農業、スマートファクトリーなどさまざまな産業分野で活躍が期待できますよ。
Wi-Fi 6E のこともわかる!
ニューラボには802.11ahだけでなく、Wi-Fi 6Eの法人向け最新アクセスポイントも展示されています。
Wi-Fi6Eではそれまでの2.4GHz帯と5GHz帯に加えて、6GHz帯の利用が可能になり、高速で大容量な通信が可能となりました。ただ、実際にその能力を存分に引き出せる環境は多くはありません。
ニューラボではバックホールの回線なども含めて、実力を引き出す環境が整えられているんです。その場でスピードテストもできますので、ぜひ来場して試してみて下さいね!
AP-635(HPE Aruba networking)
Catalyst9166(Cisco System G.K,)
WAPM-AXETR(株式会社バッファロー)
ニューラボを見学する方法
ニューラボだけを見るなら
施設の見学には事前予約が必要です。NTT東日本グループの施設ですが、ニューラボに限って言えば新たな無線技術の社会全体への利用拡大や学習のための施設でもあるので、NTT東日本グループとのおつきあいのある企業でなくとも見学することができます。Wi-BizまたはAHPCのWebサイトからの事前予約の申し込みができます。
Wi-Biz申し込みページ:
https://www.wlan-business.org/newlab/application/
AHPC申し込みページ:
https://www.11ahpc.org/newlab/application/index.html
e-City Laboの他の展示も一緒に見るなら
ニューラボはNTT東日本の「e-City Labo」の一部でもあります。e-City Laboではローカル5Gをはじめ、さまざまなICTを活用したスマートな未来への技術やソリューションが展示してある巨大な体験施設です。こちらも見学可能な施設ですので、記事を読んで気になったら、ぜひ問い合わせてみてくださいね。
関連サイト:NTTe-city Labo | 一緒につくる地域活性化 | 法人のお客さま|NTT東日本
NTT東日本またはグループ会社の営業担当者までご連絡いただく必要があります。NTTBPにお問い合わせをいただければ、ご案内が可能ですよ!
新しい無線技術に向けられる期待
さまざまな分野で高齢化や人手不足による長時間労働などの問題を抱えている昨今、AIや遠隔操作といったデジタル技術による生産性の向上に期待が集まっています。
一方で、農業や畜産、漁業、工業などでは、光回線の敷設が難しい、Wi-Fiでは届かない、といった通信環境の課題を抱えている現場が少なくありません。NTTBPでは802.11ahやWi-Fi 6Eをはじめとした、さまざまな無線技術でビジネスをお手伝いしています。 気軽にお問い合わせください。