チャボP:あー、急にWi-Fiが切れた! 会議中だったのに!
ライターU:どうしたんですか? 急に大きな声出して
心配して声を掛けるライターUの手には、ほっかほかの弁当が乗っています。たった今、電子レンジで温めてきたようです。
チャボP:君がレンジを使ったから、WEB会議が途切れちゃったじゃないの!
ライターU:えー! 言いがかりでしょ! 関係ないですよレンジなんて!
編集長:ちょっとちょっと! どうしたの二人とも!
電子レンジのせいでWi-Fiが切れたと主張するチャボP。関係ないと言い張るライターU。
果たして、どちらが正しいのでしょうか?
編集長:事情はわかった。だけど、二人とも根拠もなく言うのは良くない。どうせなら調査してちょうだい!
1.電子レンジとWi-Fiは干渉するの? 調査手段とは
ライターU:そうは言ったものの、干渉を調べる方法なんてあるんですか?
編集長:こんなこともあろうかと! スペシャルな道具を借りて来たよ! スペクトラムアナライザー!
ライターU:スペ......なんですか?
チャボP:必殺技?
編集長:これは電波を可視化できる道具だよ。これを使えば電子レンジから出ている電波の様子が一目瞭然ってわけ。じゃあ、これ使って調べといてね。数百万円する機械だから絶対壊さないでよ。あとはよろしくー!
ライターU:数百万!? あっ、ちょっと! 編集長ー!
2.実際に電子レンジとWi-Fiを同時に使ってみた
まさかそんなに高価な機械だったとは......。それを聞いた二人は、恐る恐る電源を入れました。すると、画面上でジグザグの線が動いています。
どうやら2.4GHz帯の電波状況を表している様子。さっそく、パソコンの前で使ってみることにしました。
チャボP:これが普通の状態か。えっと、この黄色のギザギザが、今の電波状況かな。
ライターU:ふむふむ......横軸が周波数、縦軸が強さ、みたいですね。あ、ときどきぴょこっと出るのがWi-Fiですね。レンジを使うとこれが......どうなるんだろう?
チャボP:わからないけど、とりあえず使ってみよう!
【※動きます】
チャボP:なんか激しく動き始めた!
ライターU:最大値を示す青線が一気に盛り上がりましたね!
電子レンジを使った時のグラフは、明らかに先ほどより激しく大きく動きました。
実はこれは、電子レンジが2.4GHz帯で電波を放出していることを示しているのです。
<解説>電子レンジが放出するマイクロ波は、Wi-Fiでも利用されている2.4GHz帯
電子レンジは強力な電磁波で対象物の水分子を振動させて温めておる。実はこれ、Wi-Fiでも利用されている2.4GHz帯の電磁波なのじゃ。同じ周波数帯を使っているので、電子レンジから漏れ出る電波が、Wi-Fiと干渉してしまうんじゃな。
電子レンジは家庭用としてはかなり強い電磁波を発する機器です。そのため、人体に影響のないように金属の防壁でしっかりと電波を遮断しています。電子レンジのガラスに、網目状のシートが貼ってあるのを見た覚えはありませんか? 実はこれも電波を庫外に出さないための仕組みなんです。
もちろん、日本国内で正規に販売されている電子レンジは、安全基準を満たして設計・製造されていて、安全面では問題ありません。しかし、Wi-Fiの電波は電子レンジから漏れ出る安全なレベルの電波よりもさらに弱いため、同じ場所で同時に使ってしまうと、まるで大きな波に小さな波が飲み込まれるように、Wi-Fiが使えなくなってしまうのです。
3.なぜ干渉するの? ISMバンドの話
チャボP:ほらみたことか。給湯室のレンジは禁止するしかないわ。
ライターU:禁止は勘弁してくださいよ。しかし、まさか本当だとは! ......あ、でもWi-Fiって2.4GHz帯と5GHz帯があるんですよね? じゃあ、5GHz帯を使えばいいんじゃないですか?
チャボP:えー! ......あ、確かに5GHz帯なら大丈夫みたい......。
ライターU:干渉するのは2.4GHz帯だけなんですね。一体どうしてだろう。
<解説>2.4GHz帯は「ISMバンド」として、工業製品などにも使われる
2.4GHz帯は「ISMバンド」に属するんじゃ。「産業科学医療バンド」とも呼ばれておるな。免許もいらないので、電子レンジをはじめ様々な家電製品でも使われているんじゃよ。
もし、電波を誰もが好き勝手に使えたとしたらどうなるでしょう? きっと相互に干渉しあって、どれもこれも使い物にならなくなるでしょう。そうならないために、電波の利用に関する国際的な取り決めがあり、日本では総務省が管轄しています。実は2.4GHz帯はWi-Fi以外にも工業製品や医療機器をはじめ、いくつかの用途で使うことができます。電子レンジの周波数帯が2.4GHz帯なのもそのためです。
他にも身近なところだと、Bluetoothも2.4GHz帯です。ちなみに、ワイヤレスイヤホンなどで使われるBluetoothの電波はとても弱く、しかも短い時間の通信が単発的にポツポツと行われてるに過ぎません。さらに、利用する周波数の帯域も非常に細かく設定されています。隙間のような細い道をあっという間に通過してしまうので、Wi-Fiとの干渉はほとんどありません。また、PCやスマホの多くはWi-FiもBluetoothも同じ1つの装置に入っているので、通信のタイミングがぶつからないような工夫がたくさん施されています。とは言え、電子レンジのすぐそばで使用する時などは、注意が必要かもしれませんね。
4.干渉を減らすためにできること
チャボP:ただこの席、5GHz帯だとあんまり電波がよくないのよね。イヤホンもBluetoothだし......やっぱり、給湯室のレンジは使用禁止にするしかないわ。
ライターU:うーん、なんとか出来ないかなぁ? そういえばルーターに「チャネル自動設定機能」ってついてた気がするんですけど、あれは何なんだろう。もしかして、電子レンジとの干渉を回避できたりするんじゃないですか......?
<解説>チャネル自動設定機能は「電子レンジ」との干渉には効果が薄い
博士:電子レンジの電波は2.4GHz帯全域に影響を及ぼしているから、チャネルの設定に関わらず影響を受けてしまうんじゃ。
Wi-Fiは2.4GHz帯を、さらに複数の「チャネル」という単位に分けて運用しています。通常、Wi-Fiは一部のチャネルのみを利用しています。同じ場所に複数のWi-Fiがあってもチャネルが分かれていれば、干渉を避けることができます。この「チャネル自動設定」は、起動したときなどに空いている帯域を自動で見つけてくれる機能なんです。Wi-Fi同士の干渉を防ぐには有効と言えるでしょう。
電子レンジも決まった周波数帯の電波を出していますが、とても強い電波のため周囲の周波数帯にもはみ出してしまいます。そのため、どのチャネルでWi-Fiを利用していたとしても、電子レンジの影響を受けてしまう可能性があるのです。
電波の強さを時間毎に色分けして表示する別の装置で見てみると一目瞭然です。縦方向が時間で、横方向が周波数、色の濃さが電波の強さになります。左の「Wi-Fi」は複数人がオフィスのいろいろな場所でWi-Fiを利用しているのにも関わらず特定の周波数帯のみが利用されていますが、右の「電子レンジ」はたった一台の利用ですが、2.4GHz帯全体に影響を及ぼしています。
電子レンジは、弁当あたため派のライターUにとって大切なパートナー。なんとか、Wi-Fiと共存はできないのでしょうか?
電子レンジの干渉がある時に試してみること
・パソコンやWi-Fiルーターを電子レンジの近くに置かない
部屋のレイアウトを決める時には、Wi-Fiルーターと電子レンジは離しておくのが良いでしょう。パソコンやスマートフォンなどのWi-Fiの受信機器と近い場合も影響を受けることがあるので、注意が必要です。
・Wi-Fiは5GHz帯を使う
ほとんどのWi-Fiルーターは2.4GHz帯だけでなく、5GHz帯の電波も利用することができます。家庭用のものだと2.4GHz帯と5GHz帯は別々のネットワーク名(SSID)になっているため、使い分けることが可能です。5GHz帯は屋内では他の機器の干渉を受けにくいので、積極的に利用しましょう。
遮蔽物に弱いなど、5GHz帯にも弱点はある。臨機応変に使い分けるのがベストじゃよ。
ライターU:ルーターが電子レンジに近すぎたみたいですね。ちょっと離してみましょうか......これでどうです?
チャボP:やったぁ大成功! 電子レンジ使用中でも通信が安定するようになったよ!
5.まだまだある! 電波と電子レンジのこぼれ話
スペクトラムアナライザーの活躍で、一応の解決を見た今回の電子レンジ干渉事件。
けれど、二人の頭にはまだまだ疑問符が浮かんでいます。
- 電子レンジのガラス戸のシートくらいで、強い電波を本当に遮断できるの?
- そもそも電子レンジってどこから電波が出てるの?
- そういえば、電子レンジのW(ワット)は何を表しているの?電波の強さのこと?
答えは見つかるのでしょうか。
電子レンジの電波にまつわる豆知識、気になった方は以下の記事もどうぞ!
関連記事:電波が大活躍! 家電のエース 電子レンジの豆知識
https://www.ntt-bp.net/column/blog/2022/05/post-82.html
実はWi-Fiが途切れたり、弱くなる理由は他にもいろいろあります。「遮蔽物」もそのひとつです。遮るものの種類でWi-Fiの電波はどう変わるのか? 気になった方はぜひ過去記事をご覧くださいね。
関連リンク:家のWi-Fiを邪魔しているのはこれだ! プロの解説付き
https://www.ntt-bp.net/column/blog/2021/11/post-54.html