S:うちのWi-Fi、電波が悪いんですよね。部屋の端だとつながりにくくて。
編集長:最近は、Wi-Fiルーターもいいものが出ているよ。つながりにくい部屋に電波を届ける「中継機」っていうものもある。
S:でも、お金を使わずにできたほうがいいじゃないですか?
C:そういえば、アルミホイルで速くなるってネットで見たんですけど、本当ですかね?
編集長:なら、自分たちでやってみればいいじゃん?
というわけで、今回はWi-Fi初心者SとやってみたがりのC、やらせたがりの編集長が手軽に入手できるアルミホイルなどを使って「Wi-Fiの電波は強くなるのか」を、実験してみました。
実験結果は、NTTBPで電波技術に詳しい「内神田博士」に解説してもらいました。
測定と結果の表記について
※この検証実験は、日時・場所・計測端末は同一条件にて実施しています。
アクセスポイントは、無指向性の業務用タイプを使用しています。見通しのよい会議室で、Android端末スマートフォン4台を用意し、無料のアプリで電波強度を測定しました。
アクセスポイントからの距離は40cmから8mの間で測定しています。
電波は「-○dBm(マイナス○デシベル)」という表記をしますが、数値が大きいほど(数値の絶対値が小さいほど)電波は強くなります。つまり「-40dBm」と「-70dBm」だと、「-40dBm」のほうが電波は強い、ということになります。
本記事では「実験結果を読み解くのは苦手」という方にも分かりやすいよう、測定結果は各地点、各端末の結果の平均値を元に簡略化した表記をしています。
アルミホイルでWi-Fiの電波は強くなるのか?
検証1:アルミホイルでアクセスポイントを包んでみよう
S:アルミホイルは買ってきたけど、どうすればいいのか検討もつかないなぁ。うーん、とりあえずぐるぐる巻きに包んでみよう!
C:そのまま焚火に突っ込んでこんがり焼けそう! ともあれ、やってみよう。
S:めっちゃ弱くなったんですけど......
編集長:焼き芋じゃないんだから、まるっと包むやつがあるかー!
<解説>金属は電波を反射し、通さない
アルミなどの金属は電波を反射して通しません。Wi-Fiの電波にとっては、とても邪魔な存在なんですよ。
アルミホイルのように薄い素材であれば透過したり、隙間から漏れたりすることもありますので完全に電波が遮断される、というわけではありません。しかし、何重にもかさねたり、金属の板や壁であれば影響は大きくなります。
また、電波は反射しながら減衰していきますので、障害物が複数あればそれだけ弱まっていきますよ。
検証2:反射する特性を利用して、アンテナが作れない?(ステンレスボウル編)
C:反射する、ってことはうまくすれば、電波を強くするってこともできるのでは?
S:これなんてどうですか? ステンレスボウル! アンテナっぽくないですか!
C:おお、めちゃくちゃ雰囲気ある!
S:うわー、まるで変わってないですね。
編集長:雰囲気だけで、まるで変わっていないね。一部の電波はもしかしたらボウルに反射しているのかもしれないけど、全くもって1ミリも影響ないね!
S:そこまで言わなくてもー(泣)。
検証3:反射する特性を利用して、アンテナが作れない?(アルミオーブン編)
C:じゃあ、こういうのはどうですか? Wi-Fiを使いたいのはこの装置の正面。上下左右に広がっている電波を反射させて、正面からだけ電波が出るようにすれば、電波が重なって強くなるんじゃないですかね?
編集長:なるほど、強制的に疑似ビームフォーミングか。一応理屈らしいものを立ててきたな!
C:ジャーン! ピタゴラ装置作成で鳴らした、私のクラフトテクが火を噴くときがきましたね! 私、天才じゃないですか?
編集長:アルミオーブン! キャンプにでも行くの?
S:きもーち、強くなって、る?
編集長:残念だけど、測定上の誤差みたいなもので、利用するのに全く違いはないね。
C:自分、天才じゃなかったです......
編集長:それに、こんな風にアルミで周囲を覆ったりすれば熱も籠る。現に、このルーターもめちゃくちゃ熱いじゃないか! 機器の熱暴走もあり得るから、ちょっと危険かもな。
C:装置の形とかを変えればなんとかなったりします?
<解説>電波を強くする装置を自分で作るのは極めて難しい
発想としては悪くはなかったですね。電波には「波長」というものがあります。「波長」の長さに"うまくあわせて"反射させれば、電波が強くなる可能性もゼロではありませんが、手作り工作で「強く」するのは非常に難しいと言えるでしょう。
電波はその名前の通り「波」のように伝わります。「波」の大きさは、電波の周波数によって異なります。電波が反射するときには、その波長の高さによって強くなることも弱くなることもあります。
それに、アクセスポイントから極めて近い場所では波長は安定していません。この実験の例ではアクセスポイントから壁までの距離も一定ではありませんし、壁の表面の凹凸もありますから、このアルミオーブンの中では電波が「乱反射」していると考えられます。反射しながら強くなったり弱くなったりしているかもしれませんが、狙って強くできているわけではありません。
あまり聞きなれないかもしれませんが、「ミリ波」など別の電波では「導波管」という装置も存在します。電波を反射させながら特定の方向に電波を送波します。このオーブンと発想は近いかもしれませんが、緻密な計算のもと設計された装置なので、初心者が手作り工作で真似をする、というのは難しいかもしれませんね。
そもそも電波が強くなれば、インターネットは速くなるのか?
編集長:そもそも電波が強くなれば、インターネットは速くなるのか?
S:えー? ならないんですか?
編集長:インターネットの速さを決めているのは、電波の強さだけじゃないよ。インターネット回線の速度や、同時に利用している人数など、たくさんある要素のうちの一つにすぎないんだから。
S:それはそうかもしれないですけど、できるだけ電波って強いほうがいいんじゃないですか?
<解説>電波は強すぎても弱すぎてもだめ。電波を強くする工夫より、置き方の工夫を
たとえば皆さんが音楽などを聴くときの音量は、大きすぎても音はきれいに聞こえませんよね。電波もそれと同じです。強ければ強いだけいい、というわけではないんです。
Wi-Fiの電波は、実は一定の強さがあれば十分です。電波が強いからといって、その分インターネットが速くなる、というわけではありません。
電波にも適切な強さ、というものがあります。NTTBPでWi-Fiスポットを設計する際には、使用するアクセスポイントや端末の性能に応じて適正値が異なりますが、おおむねRSSIが-30dBm ~ -65dBmとなるようアクセスポイントを設置します。場合によっては出力制限をして、電波を弱めることもあります。
家庭用のWi-Fiルーターの場合は、出力の強弱まで設定することはまずないと思いますので、電波の強さはその機器で出力できる最大値で設定されていることが多いでしょう。出力できる電波の強さは法律で決まっていますので、極端に強く出力できる装置もありませんが、弱すぎるということもありません。どのWi-Fiルーターでも、至近距離での電波強度は十分だと考えられます。家の中で電波が弱いな、というときは壁で隔てられていたり、障害物が多いなどが考えられますので、置き方を工夫したり、中継機を使ったりする方が現実的です。
結論:アルミホイルは電波に影響を与えるが、インターネットを速くすることは困難
今回の実験結果と博士の解説をまとめると、以下のようになりました。
- アルミホイルは電波を反射するので、至近距離にあれば電波状況に影響を与える
- ただしアルミホイルを使って電波を狙って強くすることは、素人にはほとんど不可能
- 周囲を囲んだりすると、熱暴走などの危険も
- そもそも「電波が強いこと=インターネットが速い」というわけではない
そして電波が弱いと感じるときに大事なポイントは、電波を強くする工夫より、Wi-Fiルーターの置き方を工夫するということでした。
次回は、家の中でどんなものがWi-Fiの障害になるのか、家のどんな場所にルーターを置けばいいのか、実験しながらご紹介します。お楽しみに!